『魔女の祝福と人の王』 相沢 ナナコ

 世界の真ん中に朝の光を集めた真珠のような都があって、そこにいる王様が世界のすべてを治めていた頃のお話です。

 王様が結婚し、皆が待ち望んだお子様が産まれました。世界中の人がお祝いのために都に集まります。動物や鳥も、言葉の分かる賢いものは人間と同じくお祝いに駆けつけました。

 さて、王様の治める広い世界の四隅には、それぞれ力のある魔女が住んでいて、世界の守護を受け持っていました。
 王様にお子様が産まれたと聞いた魔女たちは、遥々と都を目指して旅立ちました。


 都に住む犬たちがお子様の誕生を知り、お祝いの遠吠えをすると都外れの森に住む野犬に届き、野犬の遠吠えは荒野に住む狼に伝わりました。伝わり伝わった遠吠えは、北の魔女の友人である老いた白い雌狼が聞きました。お子様が産まれた晩のことです。大きな月が出ていました。

 北の魔女は都から遠く離れた北の果て、真っ白な雪と氷のほかは何も見えないところに、白や銀色の狼たちと一緒に暮らしています。

 おうさまにおこさまがうまれましたよ、あなたが行って、いっしょう幸せでいられるようにとしゅくふくをしなくては。

 老いた雌狼はそう言うと、魔女の箪笥からとっておきの真っ白な外套を銜えて取ってきました。
 いっしょに都に行こう、と魔女が言いますが、雌狼は座り込んだままです。

 わたしの足はもうつよくないから、都に行くことはできません。
 あなたのいえの暖炉の火がきえないようにみていますから。

 朝になって、北の魔女は南に向かいました。
 真っ白な外套を着て、お子様の誕生を祝うために。


――続きは本誌でお楽しみください――

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