『指針と羅針』 泉 由良

  ソウビ

 男の子はソウビが好き
 吉井さんも私もそのことは分かっていたから
 合宿のとき
 同じ三班のいそべくんが
「おれの時計、磁石ついてんだぜー」
 と、云っても
 田辺くんが
「おれのは温度と湿度が分かるし」
 と、云っても
 うんうん、と頷いておいた

 合宿所のある山のなかでは
 いそべくんは磁石をいちいち何処かへ向けて見せる
(正確には方位磁針だ、
 時計に付けているならそれくらい分かっていてよ、いそべくん)
 田辺くんは、眉間に皺を寄せたへんなかおで、
「山は湿度が高い、」
 などと云っていた
 どうでもいいじゃんって
 女子たちは云わない
 男の子はそういうのが好きだからしかたがないし、
 嬉しそうに話すから、いいと思う

 夜、
 すぎうらくんが、云った
「北極星みえるんじゃない?」

「何処どこどこ?」
 吉井さんと私と、それから居合わせた村田さんが夜空を見回す
「北だろ、北極星だもん」
 いそべくんはしかと腕時計を突き出すけれど暗くて見えない
「けーこーとりょーとか塗ってないんだー」
 村田さんが笑った
「だってさー」
 いそべくんは、だってさーのあとが続かない
「あそこだよ。二等星だから、ちょっと小さいよ」
 すぎうらくんが指差す
「なんでわかるんだよう」
 田辺くんが不満げに云った
「てきとー云うなよー。星いっぱいだし。どれだか分かるかよう」

 適当じゃないよ、と云ったあと、
 すぎうらくんは夜空を指さして話した
 あれがカシオペアでね、こっちの柄杓の形は北斗七星
 ここをね、五倍にのばしてちょうどそこにあるのが、北極星
 二等星だから光は少し弱いけれど、夜の空はあの星を中心に回るんだ

 いつの間にかみんな空を見ていた
 いそべくんの眼にも田辺くんの眼にも星の光が映っていた
 私も吉井さんも村田さんも
 パジャマ姿で

 方角が無くても夜空がわかると
 すぎうらくんは教えてくれた
 夏の大三角形
 南の空のサソリ座の赤い心臓
 胸のなかに星図表を抱きながら
 合宿の夜は過ぎていった
 星よ
 星よ
 星たちよ

 星はたぶん、仲良しなんだろう
 私たちみたいに


――続きは本誌でお楽しみください――

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